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  • フィリピン不動産売却、その「大丈夫」は大丈夫じゃない。 ―ブローカーが自ら違法を告白した実話

    フィリピン不動産売却、その「大丈夫」は大丈夫じゃない。 ―ブローカーが自ら違法を告白した実話

    あなたの不動産、違法ブローカーに任せていませんか

    フィリピンで不動産を売却しようとしたとき、知り合いから「いいブローカーがいるよ」と紹介された経験はないだろうか。

    紹介者は信頼できる人物。ブローカーも感じがいい。「すぐ売れますよ」と力強く言ってくれる。必要書類のリストも送られてきた。なんとなく安心する。

    その「なんとなく」が、あなたの数百万ペソを危険にさらしている。

    これは実際に起きた話だ。


    ブローカーが自ら認めた違法行為

    不動産売却を検討していた私のもとに、日本人の知り合いを通じてフィリピン人ブローカーが紹介された。送られてきたのは、売主に必要な書類のリスト。内容自体は一般的なものだった。

    しかし、確認すべきことがある。売主が書類を揃える前に、ブローカー自身の資格と所属を確認するのは当然のことだ。

    PRCライセンス番号、所属する不動産会社のSEC登録、DHSUD登録、PRC Agency Accreditation、OR(Official Receipt)。これらの提示を求めた。

    返ってきた答えはこうだ。

    “I cannot provide this because it’s a discreet job outside the company where I am affiliated. The company where I am working will not issue it to me because it’s not allowed that I sell other developer projects. If I use that documents I will be fired. But I can provide my PRC number only.”

    訳すとこうなる。「所属する会社に内緒でやっている仕事なので、会社の書類は出せません。他のデベロッパーの物件を売ると解雇されるので。PRCの番号だけなら出せます。」

    自分で違法行為を告白している。しかも、悪びれもなく。


    何が違法なのか

    フィリピンの不動産業は**RESA Law(Republic Act No. 9646)**によって規制されている。

    この法律のSection 30は明確だ。不動産の仲介業務は、PRC(Professional Regulation Commission)に認定された不動産会社(Accredited Agency)を通じてのみ行うことができる。

    PRCライセンスは個人の資格に過ぎない。運転免許証を持っていても、無車検の車で営業タクシーを走らせれば違法であるのと同じだ。ライセンスがあることと、合法的に営業できることは別の話である。

    会社に無断で個人的に仲介業務を行う行為は、法律上無免許営業と同等に扱われる。罰則はPHP 50,000〜200,000の罰金、または2〜5年の禁固刑。しかも取引1件ごとに1カウントされる。


    「大丈夫」という言葉の恐ろしさ

    フィリピンで長く過ごした人なら、この言葉に何度も出会ったことがあるだろう。

    “No problem.” “Don’t worry.” “It’s okay, trust me.”

    不動産に限らない。ビジネスでも、日常でも、この言葉は空気のように使われる。そして多くの場合、問題は確かに存在している。

    今回のケースで最も恐ろしいのは、ブローカー本人に違法行為をしているという認識がないことだ。会社にバレなければ大丈夫。書類がなくても取引はできる。PRCライセンスさえあれば問題ない。

    その感覚が、売主であるあなたを巻き込む。

    違法ブローカーとの取引で起きることを列挙する。

    ATS(Authority to Sell)に法的根拠がない。 認定エージェンシーを通していないATSは無効だ。あなたが署名した書類が、法的にはただの紙切れになる。

    トラブル発生時に保護がゼロ。 ブローカーの背後に会社がない。個人が逃げたら、追及する先がない。あなたの物件情報、タイトルのコピー、パスポート情報だけが相手の手に残る。

    買主側から取引の有効性を争われる。 違法な仲介を通じた売買は、後から無効を主張される材料になり得る。数百万ペソの取引が白紙に戻るリスクを、あなたが負うことになる。


    不動産売却を依頼する前に、必ず確認すべき7つの項目

    「信頼できる人からの紹介だから大丈夫」ではない。紹介者の信頼とブローカーの合法性は全く別の問題だ。以下の7項目を、書類を渡す前に、ATSに署名する前に、必ず確認してほしい。

    1. PRC Real Estate Broker License

    ブローカー個人のライセンス番号を聞き、自分で検証する。PRCの公式サイト(verification.prc.gov.ph)で名前またはライセンス番号から有効性を確認できる。口頭での「持ってます」は証拠にならない。

    2. 所属不動産会社のPRC Agency Accreditation

    ライセンスの次はこれだ。ブローカーが所属する不動産会社がPRCに認定されているか。**認定のない会社との契約は法的に無効(unenforceable)**とされた判例がある。認定証の提示を求めること。

    3. 所属会社のSEC登録またはDTI登録

    会社が法的に存在しているかの証明。SEC(法人)またはDTI(個人事業)の登録証を確認する。

    4. DHSUD登録

    Department of Human Settlements and Urban Development(旧HLURB)への登録。不動産ブローカーおよび会社の営業活動を管轄する機関だ。

    5. OR(Official Receipt)

    正規の事業体として営業している証拠。ORが出せないということは、事業登録がないか納税していないか、正規の営業実態がないことを意味する。

    6. ATSの条件

    Authority to Sellに署名する前に、独占契約(Exclusive)か非独占(Non-exclusive)か、契約期間、コミッション率を必ず確認する。独占契約に安易にサインすると、その期間中は他のルートで売却できなくなる。

    7. ブローカーの実績と取引経験

    あなたの物件に合った経験があるか。コンドミニアムと土地では全くプロセスが違う。法人名義の物件を扱った経験があるか。地方の農地に関する知識があるか。テンプレートの書類リストを送ってくるだけのブローカーは、あなたの物件の複雑さを理解していない可能性がある。


    あなたの物件を守れるのは、あなただけだ

    フィリピンの不動産取引は、日本の常識が通用しない場面の連続だ。紹介者が善意であっても、ブローカーが笑顔であっても、法的な裏付けがなければあなたの資産を守るものは何もない。

    「大丈夫」を信じる前に、書類を確認しよう。 「すぐ売れる」に急かされる前に、相手の素性を確認しよう。 「信頼できる人の紹介だから」で思考を止める前に、法律を確認しよう。

    確認に時間をかけることを嫌がるブローカーは、確認されると困るブローカーだ。

    あなたの不動産は、あなたが何年もかけて築いてきた資産だ。それを守る最初の一歩は、正しい相手を選ぶことから始まる。


    本記事は実際の体験に基づいています。フィリピンでの不動産売買に関するご質問は、必ず現地の不動産専門弁護士にご相談ください。